メモリのゼロ初期化やコピーなどの基本的なメモリ操作は,カーネル内で頻繁に実行されるため,システム性能に大きな影響を与える重要な要素である.しかし,これらの操作をCPUで実行する場合,キャッシュを消費してアプリケーション性能に影響を与えるほか,CPUの演算資源を単純な処理に割くことになり,資源利用の面で非効率である.従来の研究でも,DMAを用いたメモリコピーのオフロード手法が提案されてきたが,これらはカーネル内のメモリ操作には適用されていないほか,汎用性や並列性にも課題が残る.本研究では,カーネル内のメモリ操作を専用ハードウェアにオフロードし,非同期に処理する手法を提案する.提案手法では,メモリ上のディスクリプタリングを介してカーネルとメモリ操作エンジンが非同期に通信し,柔軟かつ拡張性の高いメモリ操作を実現する.また,メモリ操作エンジンをPCIe接続のデバイスとして実現することで,CPUとメモリバスを分離して並列実行を可能とする.我々は,提案するメモリ操作エンジンをFPGA上に試作し,Linuxページアロケータを改修して非同期ゼロ初期化機構を実装した.マイクロベンチマークによる評価の結果,メモリ確保および解放処理の高速化を確認した.また,本手法はゼロ初期化やコピー以外のさまざまなメモリ操作への拡張可能性を有することを示す.